宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン

 今回は、国土交通省より正式に令和3年10月に宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドラインが発表されましたので、ブログでご紹介したいと思います。ちょうど9月にブログを書いたのですがその時には、このようなガイドラインが決定していませんでした。

現状・課題

⃝ 不動産取引に当たって、取引対象の不動産で生じた人の死について、適切な調査や告知に係る判断基準がない。円滑な流通、安心できる取引の阻害
⃝ 判断基準がないことで、所有する物件で死亡事故等が生じた場合に、全て事故物件として取り扱われるのではないかとの所有者の懸念。特に単身高齢者の入居が困難

検討の経緯

人の死が生じた不動産の取引に際しての宅建業者の判断基準となるガイドラインを策定するため、「不動産取引に係る心理的瑕疵に関する検討会」(座長・中城康彦 明海大学不動産学部長)を開催し、ガイドラインの方向性・内容について議論。

●過去に人の死が生じた居住用不動産の取引に際して宅地建物取引業者がとるべき対応に関し、宅地建物取引業法上負うべき義務の解釈について、現時点で一般的に妥当と考えられるものを整理。

調査について

<調査の対象・方法>

  • 宅地建物取引業者が媒介を行う場合、売主・貸主に対し、告知書等に過去に生じた事案についての記載を求めることにより、媒介活動に伴う通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとする。
  • 宅地建物取引業者は、原則として、自ら周辺住民に聞き込みを行う、インターネットサイトを調査するなどの自発的な調査を行う義務は無く、仮に調査を行う場合であっても、亡くなった方やその遺族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し、特に慎重な対応が必要。

<調査に当たっての留意事項>

  • 宅地建物取引業者は、売主・貸主による告知書等への記載が適切に行われるよう必要に応じて助言するとともに 、売主・貸主に対し、事案の存在について故意に告知しなかった場合等には、民事上の責任を問われる可能性がある旨をあらかじめ伝えることが望ましい。
  • 告知書等により、売主・貸主からの告知がない場合であっても、人の死に関する事案の存在を疑う事情があるときは、売主・貸主に確認する必要がある。

告知について①

【原則】宅地建物取引業者は、人の死に関する事案が、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には、これを告げなければならない。

⇩裁判例や取引実務等も踏まえ、現時点で妥当と考えられる一般的な基準をとりまとめ

【告げなくてもよい場合】

  1. 【賃貸借・売買取引】取引の対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)。 ※事案発覚からの経過期間の定めなし。
  2. 【賃貸借取引】取引の対象不動産・日常生活において通常使用する必要がある集合住宅の共用部分で発生した①以外の死・特殊清掃等が行われた①の死が発生し、事案発生(特殊清掃等が行われた場合は発覚)から概ね3年間が経過した後
  3. 【賃貸借・売買取引】取引の対象不動産の隣接住戸・日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で発生した①以外の死・特殊清掃等が行われた①の死 ※事案発覚からの経過期間の定めなし

告知について②

  • 告げなくてもよいとした②・③の場合でも、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案は告げる必要がある。
  • 告げなくてもよいとした①~③以外の場合は、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は、告げる必要がある。
  • 人の死の発覚から経過した期間や死因に関わらず、買主・借主から事案の有無について問われた場合や、社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等は告げる必要がある。
  • 告げる場合は、事案の発生時期(特殊清掃等が行われた場合は発覚時期)、場所、死因及び特殊清掃等が行われた場合はその旨を告げる。

<留意事項>

  • 亡くなった方やその遺族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し、これらを不当に侵害することのないようにする必要があることから、氏名、年齢、住所、家族構成や具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はない。
  • 個々の不動産取引においては、買主・借主が納得して判断したうえで取引が行われることが重要であり、宅地建物取引業者においては、トラブルの未然防止の観点から、取引に当たって、買主・借主の意向を事前に十分把握し、人の死に関する事案の存在を重要視することを認識した場合には特に慎重に対応することが望ましい。

※人の死が生じた建物が取り壊された場合の土地取引の取扱い、搬送先の病院で死亡した場合の取扱い、転落により死亡した場合における落下開始地点の取扱いなど、一般的に妥当と整理できるだけの裁判例等の蓄積がないものは、今後の事例の蓄積を踏まえて、適時にガイドラインへの更新を検討する。